事業の内容

事業の内容等

(1)事業の趣旨・目的等について

ⅰ)事業の趣旨・目的

 未来のネットワーク社会は、多種多様なデバイスがインターネットでつながり、そこから得られたビッグデータと AI を活用し、あらゆるモノが自動的・自律的に動作するようになり、このことにより、経済活動の効率性や生産性の向上、また労働力不足、社会保障などの課題解決に寄与することを目指している。
 スマートコントラクトは、契約執行条件と内容をあらかじめプログラムで定義し、条件に合ったイベントが発生すると自動執行する仕組みのことであり、未来のネットワーク社会において必要不可欠なプロトコルである。
ブロックチェーン技術は、スマートコントラクトを実装し、極めてセキュアな環境の中で、契約や事務手続きを省力化・自動化し、コストを削減することや、中央に管理主体を置かずに、分散型で自動的・自律的に統治・管理される自律分散型組織を実現するために期待される技術である。
 本事業は、こうした未来のネットワーク社会で極めて期待度の高い技術等を習得・実行できるシステム開発者を育成するための教育プログラムを産学連携で開発・実証・評価する。また、この教育プログラムを他地域にも普及し、IT 人材不足に貢献する。

ⅱ)学習ターゲット、目指すべき人材像

 本事業は、IT 系専門学校でシステム開発を学んでいる学生を対象として、ブロックチェーンの仕組みを理解し、ブロックチェーンプラットフォーム上でスマートコントラクト開発を行うことができる人材を育成する。

(2)当該教育カリキュラム・プログラムが必要な背景について

 現在、産業界では、IoT 及びビッグデータ、AI 等の技術革新により、データ解析結果の活用の多様化、シェアリング・エコノミー、AI やロボットの活用、そしてフィンテックの発展等、超スマート社会の実現に向けて世界が動いている。
 我が国では、平成 28 年 4 月、経済産業省が「新産業構造ビジョン~第 4 次産業革命をリ
ードする日本の戦略~」の中間整理を発表、同年 6 月「日本再興戦略 2016 ―第4次産業革命に向けて―」において、第 4 次産業革命の戦略が盛り込まれ、“本格的な IoT 時代には、クラウド集中型のデータ管理・処理構造から分散コンピューティングの考えを中心に据えた構造に移行する“と発表した。
 同月、経済産業省は、ブロックチェーン技術が従来の集中管理型のシステムに比べ、『改ざんが極めて困難』であり、『実質ゼロ・ダウンタイム』なシステムを『安価』に構築可能という特性を持つことや、あらゆる産業分野で次世代プラットフォームとなる可能性をもつ当該技術において主導権を海外企業等に握られる恐れがあることから、「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」を実施し、その結果を発表した。
 同調査結果の中には、ブロックチェーン技術による市場規模は 67 兆円と推計され、中でもスマートコントラクトによる市場規模は 20 兆円と、全体の約 3 分の 1 を占めることが発表され、社会が変革していく中でこれら技術が大きな影響力を持つことが示された。
 こうした調査結果を受け、「未来投資戦略 2017」では、規制改革・行政手続簡素化・IT 化の一体的推進の主な取組に、ブロックチェーン技術について、“政府調達等の分野で実証を開始、スマートコントラクトによる効率化促進等に向けて、運用・ルール面から検討”と、具体的な施策が打ち出された。
 また「未来投資戦略 2018」では、“天然資源の乏しい日本にとって、エネルギー供給は日本経済の潜在的な「弱み」である。また、金融面でも、日本は世界的な競争から遅れを取っているのが現状である。 こうした「弱み」を、ブロックチェーン技術等を活用した集中型から分散型によるセキュリティの確保や、新しい決済手法、スマートエネルギーマネジメントなど、最新の技術革新を取り入れることにより、国際競争で互角に戦える「強み」に変えることが可能となる。“としている。
 これらのことを踏まえ、Society5.0 には、ブロックチェーン技術が大きく影響することが明らかである。

 IT 産業における人材不足は深刻である。経済産業省は、平成 28 年 6 月に発表した「IT 人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」の中で2019 年をピークに、IT 関連企業への入職者は退職者を下回り、産業人口は減少に向かうと予測した。また、IT 関連産業従事者の平均年齢は 2030 年まで上昇の一途をたどり、産業全体としての高齢化も進むことが把握された。
 また、同調査の中では、IT 企業及びユーザー企業(産業界全体)の現時点での先端 IT 人材は約 9.7 万人、現時点での不足数は約 1.5 万人であり、 2020 年までにこの人材数が12.9 万人、不足数が 4.8 万人にまで拡大するという試算をしている。
 「未来投資会議 2017」では、産学連携による実践的教育の中で、産業界のニーズを踏まえた教育を提供する仕組みが十分に構築されていないことや企業内での実際の課題や実データを利用した教育の実現、企業現場を熟知した講師の養成等を課題化し、実践的かつ高品質な教育の実現を目指している。
 このような背景から、ブロックチェーンのプラットフォームの構築・管理ができ、スマートコントラクト用のプログラム開発ができる若手人材の育成は、日本の今後の成長にとって喫緊の課題と考える。
専門学校が行っているシステム開発者育成教育では、基本的なプログラミング技術を理解することや既存のデータベースやストレージ技術を学ぶ学習が実施されている。
 このカリキュラムの中に、産業界で実際に展開されている開発事例を基にブロックチェーン技術を理解することや、ブロックチェーンプラットフォーム上でスマートコントラクトを開発する演習・実習を組み込むことにより、専門学校の特色を生かした実践的な次世代システム開発者教育モデルを構築することが期待される。

(3)開発する教育カリキュラム・プログラムの概要

ⅰ)名称

次世代システム開発教育プログラム

 

ⅱ)内容

○開発する教育カリキュラム・プログラムのイメージ

○ ポリシー

『改ざんが極めて困難』『実質ゼロ・ダウンタイム』『安価』に構築可能という特性を持ち、あらゆる産業分野の次世代プラットフォームとして期待される技術を有し、契約プロセスや取引の自動化・効率化を実現するために必要な知識および技術を身に付けたシステム開発人材を育成する。

○ 人材像

  1. 既存のデータベース、ストレージ技術を理解し、基本的なプログラミングができる。
  2. ブロックチェーンの仕組みや特徴および要素技術を理解している。
  3. ブロックチェーンプラットフォームの構築管理ができる。
  4. スマートコントラクト用の開発言語を用いてプログラム開発ができる。
  5. 既存のIT システムとスマートコントラクトを組み合わせた開発ができる。

○ 科目構成

専門学校において既に行われているコンピュータリテラシー教育およびシステム開発教育に加えて、分散化された安全なプラットフォーム上で契約プロセスや取引の自動化を学ぶ科目として「ブロックチェーン概論」「スマートコントラクト開発入門」「スマートコントラクト実践」を新たに付加する。

○ 各科目の目的等

  1. ブロックチェーン概論(平成 30 年度に第 1 次開発を開始し、平成 31 年度完成予定)
    目的: スマートコントラクト開発に必要なブロックチェーン技術を理解する。
    概要: ブロックチェーン技術とその要素技術を演習することにより、その内容や特徴を理解する。
    方法: 講義+演習
    学習成果: Ethereum、Bitcoin、MultiChain、Corda、Hyperledger Fabric の技術および要素技術として公開鍵暗号化、電子署名、ハッシュ、PoW、P2P ネットワーク等を身に付ける。
    時間数等: 15 時間
    評価方法: 習得した知識の確認を、筆記テストなどの手法を用いて評価する。
  2. スマートコントラクト開発 入門(平成31年度に開発)
    目的: プラットフォームとスマートコントラクト開発技術を理解する。
    概要: クラウド上のブロックチェーンプラットフォームを用いてスマートコントラクト開発を行うことで、プラットフォームとスマートコントラクト開発技術を理解する。
    方法: 演習
    学習成果: ブロックチェーンプラットフォームおよび開発に必要な言語、環境等の開発技術を身に付ける。
    時間数等: 15 時間
    評価方法: 習得した知識や技術を、筆記および実技テストなどの手法を用いて評価する。
  3. スマートコントラクト開発 実践(令和 2 年度に開発)
    目的: ブロックチェーンプラットフォームとスマートコントラクト開発技術を身に付ける。
    概要: 難易度の異なる複数の開発事例を体験しながら、スマートコントラクト開発技術を身に付ける。
    方法: 演習
    学習成果: 上記2 科目の学習をベースに、既存のIT システムにスマートコントラクトを実装することが出来る。
    時間数等: 15 時間
    評価方法: 演習課題により作成されるシステムについて、機能性、信頼性、使用性、効率性、保守性、移植性の観点から評価する。

○ 本教育プログラムの特徴等

  1. 専門学校のシステム開発教育は、多くの学校においてシステム設計、データベース設計、プログラムミング等のシステム開発系科目群とアルゴリズムなどのコンピュータリテラシー教育が行われており、より短期間で新たな技術を習得することが期待できる。
  2. 現在専門学校で行われているシステム開発人材育成教育の中に、本事業が取り組む教育プログラム開発の内容が見受けられない。
  3. 民間教育事業者には、システム開発技術者等を対象に、ビットコインを中心とした知識や技術を学ぶ学習が多く見受けられる。
  4. 専門学校生を対象に難易度の異なる複数業界・分野の事例を題材とした演習を通じて、安全な環境づくりとスマートコントラクト開発を体系的に学ぶこととしている
  5. 本事業の普及として、IT 分野人材育成協議会や一般社団法人全国専門学校情報教育協会と連携し、広く専門学校の教育カリキュラムに導入していただくことにより、短期間に多くの若手次世代システム開発者を育成することが期待できる。