(1)本年度事業の趣旨・目的等について
ⅰ)事業の趣旨・目的
組込みシステム(携帯電話、家電機器、自動車、航空機、ロボット、産業機器などコンピュータを組み込んだ機器)を実現する組込みソフトウェアはハードウェア性能の向上や機能要求の高度化に伴い、飛躍的に規模が大きくなり、複雑になった。組込みソフトウェア技術は、今後の日本の国際競争力やものづくりの水準を押し上げるものと期待されている。
Society5.0で提言されている今後の社会基盤や人間生活を大きく左右するIoT(Internet of Things:あらゆるものにコンピュータが入り、ネットワークでつながれる環境)は、大量の組込みシステムがネットワーク化するシステムのため、従来の組込みシステム技術に加え情報通信ネットワーク技術を有する組込みシステム技術者の育成が急務である。 本事業では、IT分野人材育成協議会と連携して、Society5.0実現に向け、今後さらに人材不足が予測される、高度化、複雑化に対応した組込みシステム開発技術とIoTに対応するための組込みネットワーク技術を有する技術者育成の教育プログラムを開発する。本事業の成果を全国の情報系専門学校に、組込み技術者育成のモデルとして広く公開し、教育の導入と活用を推進する。 |
ⅱ)学習ターゲット、目指すべき人材像
これから組込みシステム技術者を目指す情報系専門学校学生及び現役の組込み技術者を対象に高度化・複雑化した組込みシステム開発技術に加え組込みネットワーク技術を付加して、IoT機器に対応したシステム開発技術者を育成する。 |
(2)当該教育カリキュラム・プログラムが必要な背景について
情報通信技術の進展、デバイスの進化、また、クラウドによる大容量データの分散管理技術に発展により、従来、単独のシステムとして稼働していた組込みシステムが、ネットワークに接続し、様々なデータをネット上のサーバーに送信するとともに、ネットワークから情報を取得するようになった。組込みシステムをネットワーク上に接続するためには、これまでは、情報通信モジュールを別に用意し、組込みシステムと連携するように設計されていたが、現在では、組込みチップにあらかじめ通信機能を備えているものも出現し、多くの機器がネットワークに接続するシステムとして稼働するようになっている。
図は、世界のIoTデバイス(通信機能を持った組込み機器)数の推移及び予測(出展:平成30年度情報通信白書)である。5年間で約2倍になると予測されている。今後の技術の進展等により、さらに数量が増加することが予測される。 世界のIoTデバイス数の推移及び予測 出展:平成30年度情報通信白書 Society5.0は、サイバー空間とフィジカル空間が融合した豊かな人間社会の実現を目指しているが、IoT機器により収集された各種データを情報通信によりサーバーに蓄積し、集計分析の結果をIoT機器やロボットシステムに送信して最適化を図る仕組みが想定されている。現在ネットワークに接続されているIoT機器の10倍、100倍の機器がつながり、相互の情報のやり取りを行うこととなる。このため、情報通信は、新たな通信規格や方式の導入が予定され、組込みシステムもその対応が迫られている。また、現在、ネットワーク上のサーバーに無造作に蓄積されている情報データについて、流通量の急増からサーバーの保存容量、集計分析処理 時間の増加等の課題が指摘され、これについての対応も急務である。 このような課題について、エッジコンピューティングによりある程度処理をした情報データをサーバーに送る仕組みが考えられている。さらに情報通信による相互間のデータのやり取りでは、取得データの形式やエッジコンピューティングで処理したデータ形式等に互換性が求められ、標準化やデータ処理の知識や技術が求められるようになっている これまでの組込み技術は、ハードウェアの性能を100%引き出すことを目指して、ハードウェア特有のプログラムが組まれてきた。これまで、チップの容量の問題やシステムの稼働処理、メモリの制約の中で最大のパフォーマンスを引き出すことが求められてきた。これは、組込みシステムが単独で稼働し、閉じたシステムとして成立していたための設計の方向性であった。情報通信ネットワークに接続された組込みシステムでは、組込み機器とネットワーク上のシステムや組込み機器が相互にデータを送受信する状態となるため、単独の機器のパフォーマンスのみでシステム設計ができなくなっている。また、急速なIoTデバイスの普及、ネットワークへの接続に対応した技術を持った人材にも不足が生じており、エッジコンピューティング等新たな技術への対応を含め、人材育成が課題となっている。 専門学校における組込み技術者教育は、従来の単独での組込みシステム開発が中心となっている。Society5.0に対応するためには、情報通信ネットワークへの通信・接続技術や組込み機器そのもののシステム開発だけではなく、その機器がつながり、データを送る先のシステムやデータを送ってくるシステムの知識や構造を理解している必要があり、俯瞰的に全体のシステムを理解できる知識と専門技術が必要である。 これからのIoT、ビッグデータに対応し、Society5.0の実現においては、組込み技術はその根本であるデータ収集を担う重要な技術である。これまでの組込みシステム開発技術に加え、高度化、複雑化したソフトウェアのプログラム技術、品質管理の知識と技術、組込みネットワークによるデータ通信システムの開発技術、取得データの標準化等の技術、エッジコンピューティング実現のためのデータベース技術及びデータ処理技術等の複合的な技術を有する人材が求められている。 専修学校においては、これまでの組込みシステム開発の教育に、組込みネットワーク技術、データベース技術等を付加し、IoT時代に対応した組込みシステム技術者の育成が急務である。 Society5.0では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)を目指しているため、組込みシステム開発とネットワーク技術を融合させて学習する必要があり、組込みシステム開発技術とネットワーク設計・開発技術を併せ持った人材の育成が必要であると思われる。現状の教育カリキュラムは、それぞれ独立の教育領域を設定しているため、融合した人材の育成が十分に行われていない。本事業では、これまでに行われていなかった組込みシステム開発・ネットワーク設計技術を融合して学習する教育プログラムの開発・専門学校教育への導入・普及を目指している。 |
(3)開発する教育カリキュラム・プログラムの概要
ⅰ)名称
組込みシステム・ネットワーク開発学科教育プログラム |
ⅱ)内容
本事業では、これまでの組込みシステム開発の教育に、組込みネットワーク技術、データベース技術等を付加し、それら技術を用いて、IoT時代に対応した組込みシステム開発ができる組込み技術者を養成するための教育カリキュラム・プログラムを開発する。 名称: ポリシー: 科目構成: 各科目の目的: ■コンピュータ基礎(既存の教育プログラムを活用) ■ソフトウェアエンジニアリング(既存の教育プログラムを活用) ■組込みシステム設計・開発(本事業で開発する教育プログラム) ■産学連携教育(既存の教育プログラムを活用) 本教育プログラムは、専門学校の2年制課程を想定して時間数、科目等を設計しています。初学者(高校卒業者、組込み技術を有していない者)については、すべてのプログラムを履修することとなります。 既存の組込み技術者については、本事業で教材を開発する「組込みシステム開発技術、組込ネットワーク設計・構築技術、組込みプログラミング技術、ソフトウェア結合・連携技術」が、知識・技術を向上させる対象科目となります。(その他の科目は、学生時代または社員研修等で学習済みと思われるため) また、社員教育、自己啓発等ですでに学習しており、技術として保有している科目、学習内容があれば、あらためて学習の必要はないと思われる。既存の組込み技術者については、保有技術・業務実績等により、学習科目の検討・選択が必要である。
・モデル・カリキュラム これまでの組込みシステム開発技術教育は、単独の閉じたシステムとしての開発が中心に実施されて、組込みネットワークや相互間のデータのやり取りによるシステム稼働等に対応した技術者育成はほとんど進んでいなかった。クラウドサービス、ビッグデータ処理技術、IoT機器の進展により、組込み機器が相互で連携するシステム開発が求められるようになり、この技術に対応した技術者の育成が課題である。 この数年でネットワークに接続する機器は爆発的に増加し、日本が目指すSociety5.0の社会ではさらに多くの機器がネットワークに接続されることが予測される、また、IoT機器や情報システムが社会を支える基盤となり、そのシステムの開発、運用、保守はSociety5.0を維持発展させるために必要不可欠である。 本事業では、Society5.0実現と維持発展のため、技術的な観点から、組込みシステム開発、組込みネットワークシステム構築、新たな通信規格への対応、エッジコンピューティングのシステム開発、データの標準化等の技術に対応した組込みシステム開発技術者を育成する。 ○これまでのカリキュラムとの違い 情報通信技術が進展し、これまでネットワークに接続していた機器とは異なる、新たな機器の接続が予測されている。その機器のほとんどがIoT機器(従来の組込み機器がネットワークで接続されている機器)となると思われ、ネットワークに接続する機器の爆発的な増加が予測されている。現在のネットワークでは、パソコンとサーバー、IoT機器とサーバーのような接続が中心であるが、今後Society5.0の進展に伴い、IoT機器とIoT機器が相互に通信をして、その結果、人の判断を介さず結果を出力するようなシステムが出現しつつある。本事業では、このような組込みシステム・組込みネットワークシステムの学習を行うためのこれまでにない教育プログラムの開発を行い、来るべきSociety5.0の社会に対応した組込み技術者の育成を目的としている。 |
(4)具体的な取組
ⅰ)計画の全体像
【平成30年度】 ●開発 ●実証講座 |
【2019年度】 ●実証講座 ●教育育成 |
【2020年度】 ●実証講座 ●教育育成 |
ⅱ)今年度の具体的活動
○実施事項 【調査】 ●通信技術の進展とIoT機器の対応及び最新技術調査 目的: 対象: 調査手法: 調査項目: 分析内容: 【開発】 ●教育カリキュラム・シラバス開発 ●教育教材開発 【実証講座】 ●組込みシステム開発技術講座 ●組込ネットワーク設計・構築技術講座 ●IoT(組込み)統合システム開発講座 ●教員研修会 【成果の普及】 【委員会】 ・実施委員会 3回開催 10名 ・調査委員会 3回開催 4名 ・教育プログラム開発委員会 4 回開催 8名 ・実証委員会 3回開催 8名 |
●事業を推進する上で設置する会議
会議名① | 実施委員会 | ||
目 的 | ・事業目的および内容の承認 ・事業の進捗管理 ・事業結果の確認 ・事業会計の監査 ・成果の活用、普及 |
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検討の 具体的内容 |
・事業方針策定 ・事業進捗管理 ・各委員会進捗管理 ・予算執行管理 ・評価委員会との連携 ・IT分野人材育成協議会との連携 ・課題の検討 ・成果の活用・普及 |
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委員数 | 10 人 | 開催頻度 | 年3回 |
会議名② | 調査委員会 | ||
目 的 | ・調査活動 ・調査内容の確認 ・調査報告書の作成 |
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検討の 具体的内容 |
・調査方針検討・提案 ・今後の必要技術調査 ・調査項目の検討 ・調査対象の検討 ・調査方法の検討 |
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委員数 | 4 人 | 開催頻度 | 年3回 |
会議名③ | 教育プログラム開発委員会 | ||
目 的 | ・教育プログラム開発、教育領域 ・範囲・レベルの設計、検証の確認、成果の活用の設計、IT分野人材育成協議会との連携 |
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検討の 具体的内容 |
・開発方針検討・提案 ・開発仕様の検討 ・開発業者選定 ・教育カリキュラム開発 ・教育教材開発 ・IT分野人材育成協議会との連絡・協議、情報共有 |
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委員数 | 8 人 | 開催頻度 | 年4回 |
会議名④ | 実証・評価委員会 | ||
目 的 | 教育プログラムの実証・評価 | ||
検討の 具体的内容 |
・教育カリキュラム検証 ・教育教材の検証 ・教員用ビデオ教材の検証 ・実証講座実施 |
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委員数 | 8 人 | 開催頻度 | 年3回 |
●事業を推進する上で実施する調査
調査名 | 通信技術の進展とIoT機器の対応及び最新技術調査 | ||
組込み業界 最新技術調査 | 今後、増加するIoT機器への対応状況、ネットワークで接続されたシステム等の知識・技術の範囲 2020年に実用予定である新たな通信規格G5、LPWAに伴う、IoTの進展、予測される組込みシステムの将来像と技術進展の情報を収集し、教育プログラムに反映する。 新たな通信技術の実用化により、これまで実現しなかったシステムの実現が可能であり、今後、進展する新たな通信技術を前提としたIoT・組込みシステム開発の技術や通信システム開発の技術を調査し、これまでの教育内容に付加することを目的とする。 |
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調査対象 | 組込みシステム開発企業 10社程度 | ||
調査手法 | 訪問または電話によるヒアリング | ||
調査項目 | 新通信規格5G、LPWAの対応状況、対応における新たな技術・課題 組込みシステム開発の高度化・複雑化の実態、組込みネットワークシステムへの対応状況、エッジコンピューティング技術の状況と今後の予測 | ||
分析内容(集計項目) | 組込みシステム開発の産業界での技術と専門学校で学習する内容を比較し、不足部分を明らかにする。組込みネットワークシステムへの対応状況と求められる技術を明らかにする。エッジコンピューティングの今後の展望について明らかにする。 | ||
開発するカリキュラムにどのように反映するか(活用手法) |
教育カリキュラム、科目・シラバスの領域・範囲・レベルの検討に利用する。 教育教材・演習教材の内容及び教員育成研修プログラムの内容を検討する際の基本資料とする。 |
●開発に際して実施する実証講座の概要
実証講座の対象者 | 専門学校学生、IT技術者(卒業生等) | ||
期間(日数・コマ数) |
●組込みシステム開発技術講座 ●組込ネットワーク設計・構築技術講座 ●IoT(組み込み)統合システム開発講座 |
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実施手法 | 協力専門学校の学生及び卒業生に講座を案内し、参加者を募集する。 開発担当者を講師として、講座を実施する。 講座の内容は、実習形式を中心に技術習得を目標とする。 アンケート及び評価者による評価を行い、教育プログラムの検証をする。 |
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想定される受講者数 | 60名(延べ人数) |
ⅲ)開発する教育カリキュラム・プログラムの検証
実証講座受講者の演習課題の完成度・達成度により教育カリキュラム・教材の効果を計測する。 実証講座受講者の演習課題の完成度・達成度の結果を教育カリキュラム・教材の開発に携わった企業・業界団体等と共有し、時間数、受講者の技術の向上の観点から分析する。設定された教育目標に到達している受講者の割合で、効果を検証し、内容、時間数、前提知識・技術について検討協議する。 IT人材育成協議会 ビッグデータ・IoT人材育成ワーキングにおいて、実証講座の結果から標準化・モデル化に関する検討を行うとともに、専門学校への導入に関する協議を行う。 事業に参画する企業が社員研修で活用するための改善や教育の設計(技術レベル・教育レベル・教育内容等)に関する意見を集約し、教育プログラムの設計に活用する。また、社員教育への導入を促進する。 |
(5)事業実施に伴うアウトプット(成果物)
【平成30年度】 ●調査報告書 ●教育カリキュラムシラバス ●教育教材 |
【2019年度】 ●教育カリキュラムシラバス ●教育教材 ●教員育成 |
【2020年度】 ●教育カリキュラムシラバス ●教育教材 ●教員育成 |
(6)本事業終了後※の成果の活用方針・手法
●本事業に参加する専門学校に、教育カリキュラム・教材の利用及び学科の設置について調整を行い、導入を促進する。 ●本事業に参加する企業に、開発した教育プログラムの社員教育への利用を検討いただき、成果の活用を促進する。 ●本会会員校及び全国の組込み・情報系専門学校に成果を配布するとともに、教員研修会を通して、教育カリキュラム・教材の活用および学科の設置を促進する。 ●組込み産業の業界団体を通して、成果物について、企業の研修等への利用を打診し、活用を促進する。 ●教員の研修プログラムを用いて、本会の行う教職員研修を企画し、教員の育成を行い、教員研修プログラムの活用とともに教育カリキュラム・教材の専門学校への導入を促進する。 ●組込みシステム・IoTを取り巻く環境は、今後、さらに進展することが予測されるため、事業終了後も情報収集や教育プログラムの更新を行い、常に最新の状態で教育が実施できる継続的な体制を構築する。 ●専門学校教員を対象とした「組込み(IoT)技術教育」に関する情報提供サイト・コミュニティサイトを整備し、教育実践の支援を行う。 |